睡眠時無呼吸症候群の原因とメカニズム
睡眠時無呼吸症候群の原因とメカニズム
「寝ているときに何十秒も息が止まっていると家族に言われた」
「毎日しっかり寝ているはずなのに、日中の強烈な眠気が取れない」
このような症状に心当たりがある場合、それは睡眠時無呼吸症候群(SAS:SleepApneaSyndrome)という病気かもしれません。
睡眠時無呼吸症候群は、単に「激しいいびきをかく病気」ではありません。睡眠中に何度も呼吸が止まることで、体全体が深刻な酸欠状態に陥り、心臓や脳、全身の血管に多大なストレスをかけ続ける恐れのある病気です。
本記事では、なぜ睡眠中に呼吸が止まってしまうのか、その医学的なメカニズムと主な原因、そして内科医として最も警鐘を鳴らしたい「合併症を引き起こす仕組み」までを専門的かつ分かりやすく解説します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする状態を繰り返す病気です。
医学的な診断基準では、「10秒以上の呼吸停止(無呼吸)、または空気の流れが弱くなる状態(低呼吸)が、1時間あたり5回以上繰り返される状態」と定義されています。
この1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を「AHI(無呼吸低呼吸指数)」と呼び、この数値によって重症度が分類されます。
重症になると、一晩(7時間睡眠として)で200回以上も息が止まることになり、体への負担は計り知れません。
睡眠中に呼吸が止まる仕組みには、大きく分けて2つのタイプがあります。そのメカニズムはそれぞれ全く異なります。
睡眠時無呼吸症候群の約9割以上を占めるのが、この「閉塞型(OSAS:Obstructive Sleep Apnea Syndrome)」です。これは、空気の通り道である「気道(特に喉の奥)」が物理的に潰れて塞がってしまうことで起こります。
人間は起きているとき、脳からの指令によって喉のまわりの筋肉を緊張させ、気道を広く保っています。しかし、眠りに入ると全身の筋肉が緩みます。それに伴い、喉の周辺の筋肉や、上あごの柔らかい部分(軟口蓋)、そして舌の付け根(舌根)が、重力によってダラリと下(喉の奥)へ落ち込んでしまいます。
気道が狭くなると、最初は「いびき」として音が鳴りますが、さらに狭くなって完全にシャットアウトされると、空気の通り道がゼロになり「無呼吸」状態になります。ストローで強く吸い込んだときに、ストローの真ん中がペシャンコにつぶれて飲み物が通らなくなる現象と似ています。本人は一生懸命に息を吸おうと胸やお腹を動かしているのに、喉が塞がっているために空気が肺に届かない、これが閉塞型のメカニズムです。
もう一つは、全体の数%と非常にまれな「中枢型(CSAS:Central Sleep Apnea Syndrome)」です。こちらは閉塞型とは違い、喉の空気の通り道はしっかり開いています。それにもかかわらず、脳にある「呼吸中枢」という呼吸をコントロールする司令塔が、一時的に「息をしなさい」という指令を出さなくなることで無呼吸が起こります。
中枢型は、心臓の機能が低下している方(心不全)や、脳卒中などの脳血管疾患を患ったことのある方に多く見られるのが特徴です。呼吸中枢が血液中の酸素や二酸化炭素の濃度をうまく感知できなくなることで、呼吸のスイッチが一時的にオフになってしまいます。
では、なぜ特に「閉塞型」において、喉の奥が完全に塞がってしまうのでしょうか。それには主に4つの原因が絡み合っています。
閉塞型SASの最大の引き金となるのが肥満です。体重が増加すると、お腹まわりだけでなく、首のまわりや、喉の粘膜の裏側、さらには「舌そのもの」にも脂肪がつきます。
ただでさえ脂肪によって内側から狭くなっている気道に、睡眠時の筋肉の弛緩が加わるため、容易に気道が完全に閉塞してしまいます。
「自分は太っていないから関係ない」と思われがちですが、ここに落とし穴があります。実は日本をはじめとするアジア人は、欧米人に比べて「あごが小さい」「下あごが後ろに引けている」という骨格的な特徴を持っています。
あごが小さいと、喉の奥のスペース(構造上のゆとり)がもともと狭いため、太っていなくても、少し筋肉が緩んだだけで舌が喉の奥を塞いでしまい、簡単に無呼吸状態になってしまいます。そのため、日本のSAS患者様の約3割は肥満を伴わない「痩せ型・標準体型」の方です。
年齢を重ねるにつれて、手足の筋力が衰えるのと同様に、喉のまわりの筋肉(上気道拡張筋など)の筋力も低下します。これにより、睡眠時に気道を支える力が弱くなり、重力によって組織が落ち込みやすくなります。また、女性の場合は更年期以降、プロゲステロンという「気道の緊張を保つ働きを持つ女性ホルモン」が減少することも、高齢層でSASが急増する大きな原因です。
喉の奥にある「扁桃腺(へんとうせん)」や「アデノイド(鼻の奥のリンパ組織)」が生まれつき、あるいは慢性的な炎症で肥大していると、それが物理的な障害物となって気道を狭くします。また、アレルギー性鼻炎や鼻中隔湾曲症(鼻の骨が曲がっている病気)などで慢性的な鼻づまりがあると、寝ているときに口呼吸になります。口呼吸は下あごを後方に引き下げ、舌の落ち込みを悪化させるため、無呼吸を誘発する強力な原因となります。
内科医として、睡眠時無呼吸症候群を「ただの睡眠不足の病気」として放置してほしくない最大の理由は、体の中(特に血管や心臓)で起こる恐ろしい二次災害(合併症)のメカニズムにあります。
息が止まっている間、体内では以下のような緊迫した事態が毎晩繰り返されています。
息が止まる(無呼吸)
↓
血液中の酸素が激減(低酸素血症)
↓
脳が「窒息の危機」を感知して緊急覚醒(睡眠が分断される)
↓
交感神経(興奮モード)が強制的にフル稼働
↓
睡眠中なのに血圧・心拍数が急上昇
↓
心臓や全身の血管に猛烈な負担(ダメージの蓄積)
本来、睡眠中は副交感神経が優位になり、血圧や心拍数が下がって「心臓や血管を休める時間」であるはずです。しかしSASの患者様は、寝ている間ずっと、全力疾走をしているような興奮状態(交感神経の緊張)を強いられています。
このメカニズムにより、血管の内壁が傷つき、動脈硬化が加速度的に進行します。その結果、以下のような重大な生活習慣病や生命に関わる病気を引き起こすリスクが跳ね上がります。
このように、SASの原因とメカニズムを紐解くと、この病気が「全身の血管をボロボロにする内科疾患」であることがお分かりいただけると思います。
日本人を含むアジア人は、「あごが小さい」「下あごが後ろに下がっている」という骨格的な特徴を持っています。この骨格の場合、太っていなくても生まれつき喉の奥のスペースが狭いため、睡眠中に筋肉が緩むだけで気道が完全に塞がれやすく、痩せ型でもSASを発症することが多々あります。
軽症であっても、日中に強い眠気がある場合や、すでに高血圧などの生活習慣病がある場合は放置すべきではありません。無呼吸は年齢とともに喉の筋力が低下することで悪化していく傾向があります。現時点で軽症でも、原因(肥満や生活習慣)を見直し、定期的に状態を確認することが推奨されます。
アルコールには筋肉を強く弛緩させる(緩ませる)作用があるためです。お酒を飲んで寝ると、喉のまわりの筋肉が通常以上に緩み、舌の付け根が重力で喉の奥に激しく落ち込みます。さらに、アルコールで鼻の粘膜が充血して鼻づまりが起き、口呼吸になることも無呼吸を悪化させる原因になります。
SASそのものが直接遺伝するわけではありませんが、「あごの形・骨格」「太りやすい体質」などは親から子へ遺伝します。そのため、親御様があごが小さくSASを患っている場合、お子様も同様の骨格を引き継ぐことで、将来的にSASを発症しやすい体質である可能性は高くなります。
はい、多くの女性が発症します。特に更年期(閉経以降)に急増するのが特徴です。更年期前は「プロゲステロン」という女性ホルモンが喉の筋肉の緊張を保ち、気道を広げるサポートをしていますが、閉経に伴いこのホルモンが激減するため、喉が塞がりやすくなり無呼吸が起こりやすくなります。
非常に大きな原因になります。タバコの煙に含まれる有害物質は、喉や鼻の粘膜に慢性的な炎症を引き起こします。粘膜が炎症でむくんだり(腫れたり)することで物理的に空気の通り道が狭くなり、無呼吸を誘発・悪化させます。禁煙するだけでも症状が和らぐことがあります。
可能性は十分にあります。毎日無呼吸を繰り返していると、脳が「寝不足の緊張状態」に慣れてしまい、本人が眠気を感じにくくなっているケース(自覚症状がないケース)が多々あります。眠気がなくても、ひどいいびきを指摘されている場合や、夜中に何度もトイレに起きる場合は注意が必要です。
ストレスが直接気道を塞ぐことはないため、直接的な原因にはなりませんが、間接的に悪化させる要因になります。ストレスによる暴飲暴食(肥満)や寝酒(筋肉の弛緩)、またストレスによる自律神経の乱れが睡眠の質をさらに悪化させ、SASの症状をより深刻に感じさせることがあります。
大いにあります。特に、何種類も血圧を下げる薬を飲んでいるのに目標値まで下がらない「治療抵抗性高血圧」の場合、その背景にSASが隠れている確率は非常に高いと言われています。無呼吸による夜間の酸欠と交感神経の興奮が血圧を押し上げているため、SASの原因を突き止め治療することが血圧低下への近道となります。
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