胸の痛み
胸の痛み
胸の痛みは、生命に直結する心臓血管疾患の主要な症状であり、最も警戒すべきサインの一つです。「少し休めば治まるから」「以前から時々あるから」といって放置した結果、取り返しのつかない事態(急性心筋梗塞や大動脈解離など)に至るケースは少なくありません。
以下のチェックリストをご参照いただき、ご自身の症状と照らし合わせてください。
特に、安静にしていても激しい痛みが15分以上続く場合や、冷や汗を伴う場合は、急性心筋梗塞の疑いが極めて強いため、夜間・休日を問わず直ちに救急医療機関を受診してください。それ以外の場合でも、上記の項目に当てはまる症状がある場合は、早急に当院までご相談ください。

胸部には心臓だけでなく、大動脈、肺、食道、肋骨、筋肉、神経など、多岐にわたる臓器や組織が存在します。そのため「胸の痛み」の原因疾患も多岐にわたりますが、医学的に最も優先して除外診断を行わなければならないのが、「致死的胸痛」と呼ばれる心臓および血管の病気です。
医学的には、胸痛の原因は主に以下の4つに大別されます。
心臓・血管系疾患
狭心症、心筋梗塞、大動脈解離、心膜炎など。生命予後に関わるため、最優先で鑑別を行います。
呼吸器系疾患
気胸、胸膜炎、肺塞栓症など。呼吸に伴って痛みが変化するのが特徴の一つです。
消化器系疾患
逆流性食道炎、胃潰瘍、胆石症など。食事との関連や、就寝時(臥位)での症状増悪が見られることがあります。
筋・骨格系・神経系疾患
肋間神経痛、肋骨骨折、心臓神経症など。特定の動作や圧迫によって痛みが再現されることが多いです。
心臓の病気、特に虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)において、なぜ「胸が痛む」のか。その生理学的なメカニズムについて解説いたします。
心臓は全身に血液を送るポンプとしての役割を果たしていますが、心臓自身も動き続けるためには酸素と栄養分が必要です。この心臓の筋肉(心筋)に血液を供給している血管を「冠動脈」と呼びます。
動脈硬化の進行により冠動脈が狭くなり、血栓によって閉塞したりすると、心筋が必要とする血液量に対して、供給量が不足する事態が生じます。この状態を医学的に「心筋虚血」と呼びます。
心筋への酸素供給が不足すると、心筋細胞内では酸素を使わないエネルギー代謝が行われるようになります。この代謝過程において、アデノシン、乳酸、キニン、ヒスタミンといった「発痛物質」が産生されます。
通常、血流が十分であればこれらの物質は流されますが、虚血状態では心筋内に蓄積されます。蓄積された発痛物質は、心臓に分布している知覚神経終末(交感神経)を直接刺激します。これが、心臓における痛みの発生源です。
患者様からよく「心臓は左胸にあるのに、なぜ肩やあごが痛くなるのですか?」というご質問をいただきます。これは医学的に「関連痛」と呼ばれる現象です。心臓からの痛みの信号は、神経を通って脊髄へと伝わります。
しかし、脊髄の同じ高さには、左肩、腕、首、あごなどからの皮膚感覚神経も集まっています。心臓からの痛みの刺激が非常に強い場合、脳へ信号が送られる過程で、神経回路が混線してしまいます。
その結果、脳は心臓からの痛みを「左肩や腕からの痛み」と誤認して知覚してしまいます。これが、心疾患において胸だけでなく、肩やあご、奥歯などに痛みが生じる神経学的な理由です。
心臓が原因の痛みは、皮膚の痛みのような「チクチク」「ズキズキ」といった鋭い痛みとは異なり、特有の「重苦しい」「締め付けられる」「漠然とした不快感」として自覚されることが特徴です。
患者様が「痛いというより、胸の上に重石を乗せられたようだ」「焼き火箸を当てられたようだ」と表現されるのは、このような特性によるものです。

胸痛を訴えて来院される患者様の中には、心臓以外の疾患が原因であるケースも存在します。循環器内科では、心臓病の除外診断を行った上で、以下のような疾患の可能性も検討します。
胃酸や胃の内容物が食道へ逆流することで、食道粘膜に炎症が起きる病気です。食道は心臓のすぐ後ろに位置しているため、胸骨(胸の真ん中の骨)の裏あたりに「胸焼け」や「焼けるような痛み」を感じます。特に食後や、横になった時に症状が増悪するのが特徴で、狭心症との鑑別が重要となります。
何らかの原因で肺に穴が開き、空気が漏れて肺がしぼんでしまう「気胸」や、肺を覆う膜に炎症が起きる「胸膜炎」も胸痛の原因となります。心臓由来の痛みとの大きな違いは、「呼吸体動による痛みの変化」です。深呼吸をしたり、咳をしたりした際に鋭い痛み(胸膜痛)が増強する場合は、呼吸器疾患の可能性を疑います。
肋骨に沿って走る神経が、変形した脊椎や筋肉によって圧迫され、痛みを生じる状態です。「チクチク」「ピリピリ」とした鋭い痛みが、肋骨の走行に沿って走ります。身体をねじったり、特定の姿勢をとったりした時に痛みが強くなる場合や、指で押すと痛む場所(圧痛点)が明確にある場合は、この疾患の可能性が高くなります。
水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって起こります。皮膚に発疹(水ぶくれ)が出る数日前から、胸や背中にピリピリとした先行痛が現れることがあり、この段階では狭心症との鑑別が難しい場合があります。
検査を行っても心臓やその他の臓器に器質的な異常(目に見える異常)が認められないにもかかわらず、胸痛や動悸を感じる状態です。ストレスや不安、過労などが誘因となり、自律神経のバランスが乱れることで生じます。痛みの場所が移動したり、長時間(数時間〜半日)痛みが続いたりと、典型的な狭心症とは異なるパターンを示すことが多いです。
「胸が痛い」という症状が現れた時、最も重要なことは「命に関わる心臓病であるかどうか」を迅速かつ正確に判断することです。
これは自己判断で解決できるものではなく、専門的な検査機器と、循環器疾患に精通した医師による診断が必要です。
当院では、胸痛を訴える患者様に対し、以下のような専門的検査を速やかに実施できる体制を整えています。
心電図検査
心臓の電気的活動を記録し、虚血性変化(ST変化など)や不整脈の有無を即座に判定します。
心臓超音波検査(心エコー)
超音波を用いて心臓の動きや壁の厚さを観察し、心筋梗塞による壁運動の低下や弁膜症の有無を視覚的に評価します。
ホルター心電図
労作時や夜間など、院外で発生する胸痛発作時の心電図変化を捉えます。
血液検査
心筋細胞が壊れた際に血液中に漏れ出る心臓由来の酵素や、心不全の指標(BNP)を測定し、緊急性を判断します。
「この程度の痛みで受診してもいいのだろうか」と遠慮される必要は全くございません。むしろ、軽い違和感の段階で受診していただくことが、重篤な発作を未然に防ぐ機会となります。
胸の痛みや違和感を覚えた際は、決して我慢せず、循環器内科専門医である当院までご相談ください。皆様の不安を解消し、心臓の健康を守るために全力を尽くします。
TOP